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【音楽業界の仕事をしたいなら注意】マスタリング・ミキシングエンジニア職は今から目指さないほうがいいという話

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音楽エンジニアに未来はあるのか

プロ用のオーディオ機材に携わる仕事をしていると、「音楽業界で働きたいのですが」と相談いただくことがあります。正直なところよく言われるように不況で大変な分野もありますので、本日はちょっと今後が危ないのではという仕事についてお話しします。

最近よく聞くのが音楽のミキシングやマスタリングエンジニアがあまり景気が良くないというお話。今すでに人気のエンジニアの方はまあなんとかなると思いますが、これから音楽の世界のエンジニア職を目指すのはどうなんでしょうか。

結論から言うと今ミキシングやマスタリングのエンジニアを目指すのはかなり勇気のいる決断だと思ったほうがいいと思います。今後ももちろん仕事が全く無くなることはありません。ただ、生き残りや差別化が相当難しいジャンルになると思います。どうしても似た仕事を志すならミキシングアーティストもしくはマスタリングアーティストのような、付加価値のあるポジション目指すしかないです。「なんじゃそら」ですよね。具体的にどういうことなのかこのブログで説明していきます。

ちなみに無理だとは言いません、情熱があるならネガティブな情報入れてもしょうがないです。このページから離脱し、いますぐPro Toolsをかって修行始めた方がいいです。

Avid Pro Tools

ミキシング・マスタリングエンジニアの現状と今後

90年代くらいまではCDやレコードをリリースする場合、エンジニアへの発注は不可避なものでした。予算のあるないにかかわらず、すべてのリリースにエンジニアは必要とされ、アーティストやレーベルも現在と違って CDやレコードなどの高単価なメディアが中心だったので、ちょっとヒットすればある程度の予算を確保できたので成立していました。浮き沈みのあるアーティスト職にくらべ、比較的安定していたエンジニアは音楽業界の花形職業の1つだったと思います。すべてのアーティストがリリースのためには通らないといけない有料の橋のようなビジネスでした。

2000年から2010年代にかけて一気に厳しくなっているという形ではないですが、じわじわと単価が下がり仕事の量も減り、廃業するスタジオも出てきて、生き残っている著名なエンジニアでさえ、一時期に比べれば低い単価で仕事の量をこなさないといけなくなっている人がでていると聞きます。さらに今後はもっとその傾向がもっと続くだろうと予測するプロのエンジニアの方は多いように思います。

ここまでの流れとしてはミキシング・マスタリングどちらもじわじわも減っていますが、まずはマスタリングのみのエンジニアの仕事の減りのほうが多いように思います。デジタル配信のみの場合、マスタリングエンジニアにしか絶対できないということはあまりなく、ミキシングができる人なら技術的には出来ることばかりだからだと思います。ミキシング・マスタリングエンジニア不況の原因

90年代ごろまでは高額なハードウェアを揃えないとミキシングやマスタリングのできるスタジオを構築することはできませんでした。それでも音源をリリースするすべてのアーティストのために必須となる仕事だったので、投資をして設備を整えて仕事を得てお金を回収することができました。しかし

1ー2000年代ごろからのDAWソフトウェアやマスタリング用のミキシングのプラグインの発達により、誰もが安価にプロフェッショナルがミキシングやマスタリングのできる環境を構築できるようになり、

2ー同時にストリーミングなどの発達で音楽の販売単価が下がり、結果インディーズや宅録アーティストがリリースする際にエンジニアにはコストがかけられず、

3ー自分でミックスしたりネット上でフリーでミックスをしてくれるMIX師をさがしたりする方向になっており、

4ー上述の通り、デジタル配信のみのリリースも増え、これまでプロフェッショナルなエンジニアへ発注となっていた案件自体が減ってきている

というところが主な理由で仕事が減っているのではないかと思います。

現状、メジャーレーベル系は制作となればエンジニアへ発注していますが、これも最初は単価がさがり、一部のアーティストは自分でミキシング・マスタリングし、と同じ流れでプロエンジニアへの発注は減ると思います。

メジャー作曲家の作曲コンペでは歌やバックトラックはもちろん、マスタリングまで完成できていないと勝てないということで、クリエイターがミックス・マスタリングについての知識を持っており、ある程度は自分でできてしまうという人が増えているのも事実です。

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エンジニアの価値は?

上述の不況の原因は、逆に言うとこれまでエンジニアにしかできないと思われていたことが、実は優れたツールさえあれば誰にでもある程度はできてしまうことだったのだと思います。もし本当にエンジニアにしかできないような、劇的に素人とは違いのある仕事をしていたならエンジニアへの発注は減らないでしょう。現状で仕事の減っているエンジニアの仕事も、もちろん素人よりはいい音なのかもしれませんが、金額に見合うような違いが見つけられないという事が主因なので、仕事の減ったプロが素人の無料ミックスやDAWによるミックスを批判するのはお門違いだと思います。

例えばアプリを作るならプログラミング知識のない人が自分でやろうと考えるでしょうか、おそらく自分に知識がなければプログラミングのできるエンジニアをやってもらうことになるでしょう。でももし知識がなくてもある程度アプリの開発が出来るようなツールが存在したとしたらおそらくはエンジニアに発注せずに自分でアプリを構築してしまうのではないでしょうか。音楽の世界では既にそういったことが始まっているように思います。今後もAIが発達しこの傾向がさらに強くなっていくことでしょう。AIやツールがあれば素人できてしまうようなことと大差がないなら、いくら素人のミックスを批判したところで仕事はさらに減ってしまうでしょう。AIに関して言えば他の仕事も同様にAI化は発達しますが、仕事としてまず影響があるのはマスタリング、次にミックスで、作曲については確かにどうでもいいジングルの仕事などは減るでしょうが、すでに世界には無料で使えるジングルなどは溢れかえっており、いまからAIが発達した場合、まずは無料ジングルは人が作る必要無くなりますが、もともと大したマーケットでないので、大きな影響はないと思います。テレビの業界にもMAという音のエンジニアの仕事があり、こちらもミキサーなどの仕事はAI化できますが、テレビ業界は不況といえど音楽業界に比べればお金の回っている業界のため、音楽系エンジニアに比べれば影響が出るのはゆっくりだと思います。

人気エンジニア・大手スタジオ勤務ならおそらくしばらく安泰

ただ状況として全体に仕事が減ってるのかというとそうでもなく、実際には2極化しているような状態で、アーティストから信頼を得て指示を得ているような大御所の著名なエンジニアは逆に仕事が増えていて忙しくなり、逆に暇なエンジニアはさらにじわじわと暇になっている状況です。メジャー系の人気アーティストは今でもミキシングマスタリングにそれぞれエンジニアを入れて制作予算をかけて制作をする、これまでのフローを変えていないのでそのカテゴリで既に実績があって人気のあるエンジニアは今も仕事が詰まって忙しいと言うのが実情です。逆に特定のカテゴリで実績を積んでいなかった場合、どんどん仕事が得づらくなっていると思います。

フリーは相当な実績と実力が必要

ほぼフリーで仕事が増えて忙しくなっているのは国内でもトップ10クラスに入るような本当に人気の高いエンジニアなので、もしこれからフリーのエンジニアになろうとした場合相当な実績や実力が必要とされるジャンルになるでしょう。ただしプロ野球でいえばトップ20・年俸2億以上とかのレベルが、音楽エンジニアの世界では年収1000万とかそんな世界なのは覚悟した方がいいです。

市況としては音のチャンスは大きい

地球上のスマホ人口は増殖し続けて、誰もが動画・音楽プレイヤーを携帯し動画やゲームなどコンテンツの時代となる今後にサウンドは不可欠なもので、そのサウンドの重要性に価値を創造できれば大きなチャンスもあると思います。

 

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今後生き残るのはミキシング・エンジニアではなくミキシングアーティスト

今後、エンジニア間で差別化し、生き残るために必要な考え方が、ミキシングもしくはマスタリング「エンジニア」でなく、ミックスマスタリング兼任の「アーティスト」という考え方です。ミキシングをする際にも単純に音を整えてセオリー通りにミックスするだけではなく、アーティストが想像もしなかったような方法で、ときには音を足したり逆に不要なことバッサリと削ってしまったり、楽曲自体のプロデュースにも影響してくるような方向性でsoundの最終段を任される存在です。

少しアレンジやトラックメイクにも関わるような部分まで勇気を持って提案し、アーティストからもしくはレベルから必要とされる制作工程の一環として今後も仕事は続けることができると思います。

ただ、そのやり方はアーティストから煙たがられるかもというような部分でもあるので、これは既にやっているエンジニアの方も多いのですが、「これでどうでしょう」と出来上がったマスターを1つだけ出すだけでなく、アーティストのメンバーの一人の如く楽曲に最初から関わり、ミキシングの段階では大きく違うパターンで2〜3つ提案して方向しているそうです。リファレンスに関してもアーティストから「この曲の感じで」と言われた時に、単純にその音に寄せたつもりでも、そのアーティストとエンジニアが同じ耳でリファレンス音源を聞いているわけではないので、アーティストの意図と異なるかもしれません。よく話し合って認識を共通させた上で、単なる二番煎じなサウンドに陥らないようにしましょう。

音の仕事は音楽だけでもなくてもいいと思います。例えばYouTubeを見ていると効果音や声のバランスがすごく悪い著名なYouTuberはいまだに多く、そういった有名なYouTuberは1動画で100万円〜300万円くらい稼げていたりするのでエンジニアに仕事回す余裕はあるはずです。テレビ業界でいうMAの仕事ですね。ただそこに価値を感じられていないので、現状自分でやってしまっていたり動画を編集している方がやっていたりするんじゃないかと思います。動画の音のミックスはエンジニアの仕事として考えると、音楽より長尺ではありますが、非常に簡単なトラック構成ですし、短めの高単価の仕事として獲得することができるかもしれません。またアプリの普及やIOT化で家電や自動車などのディテールにこだわったプロダクトが増えてくれば、サウンドも重視されることでしょう。一時期WARPというイギリスの名門レーベルなどからもリリースしていたRichard Devineが現在はGoogleでやとわれてサウンドデザインをやっているそうです。

そういった分野のサウンドのプロへの発注と言うのも増えると思うので、細かくいえばサウンドデザイナーやマニピュレーターと言ったところの仕事になりますがそういったところを兼ねた受注も今後は考えるられるのではないかと思います。

机上の空論や無理難題に聞こえるかもしれませんが、逆に長い目で見てこのくらいの気概が無ければ、そもそもミックス・マスタリングを志すのはかなりリスクのある選択だと思います。

 

長くなりましたがまとめると

1ー今後はマスタリングエンジニアやミキシングエンジニアは少しずつ減少しまた単価も下がるのでオススメしない

2ーどうしてもそのジャンルの仕事を目指すならミキシング・マスタリング・アーティスト的な高付加価値な仕事を目指す。

3ー音楽だけではなく幅広く良いサウンドの求められる市場を開拓し、活動の場を広げることで収入も広げる。

 その昔、DAWが発達する前はテープエディットという、音の録音されたテープを切り貼りするという作業があり、専門学校などでは授業でそういうことを教えていましたが、そのスキルはDAWの登場で全く無用となりました。このテープエディットと同様学んでも技術の進歩で役立たなくなるスキルはあります。

エンジニア職は音楽関連職では安定してそうなイメージですが、今後はもっと厳しくなるのは確実で、目指すべき目標は安定だけではないと思いますが、参考になれば幸いです。

ちなみにエンジニアの中でも、ライブのPAオペレーターはまだまだ長いと思います。ライブで事故は厳禁なので、緊急性のある対応などはどうしても人間の対応が求められますし、業界全体としても比較的お金が回ってるので、仕事の発注は続くと思います。ただし土日はないですし、仕事も深夜早朝当たり前で、一般企業だったら超ブラックと言われそうなほど激務だけど。